暴力団ミニ講座

7) 盃事(さかづきごと)、親子盃
暴力団の組織構造については、別項で既に説明したところですが、暴力団組織の特色は、擬制の血縁関係で結ばれているということです。

この身分関係を成立させるものが、「盃事」あるいは「盃式」「交盃」とか「結縁」「縁組み」と呼ばれる儀式です。

もともと、我が国においては、約束事を固めるのに盃を取り交わす風習があります。例えば、婚礼儀式で三三九度の盃を取り交わして夫婦の契を結ぶことなどはその代表例と言えると思いますが、それ以外の約束事の固めにもしばしば盃事が行われています。

暴力団社会の盃事は、暴力団社会独特の伝統と習慣に基づき、古くからの格式作法と厳粛な雰囲気をもたせる秘儀的な様式によって行われています。このような盃事は、一般人の目から見れば大変時代がかった奇異な儀式に写りますが、暴力団社会では、この盃事は、単なる形式的な儀式ではなく、団結と統制を象徴し、組織への帰属意識を高めるための大事な役目を果たすものとなっています。もっとも昨今では、こうした盃事によることなく、口頭示達など簡略な方法で身分関係を成立させている例も多くなっているようです。

ところで、一口に盃事といっても、博徒の流れを汲む暴力団と的屋の流れを汲む暴力団とでは、儀式の様式、作法等に若干の差異があります。博徒系の暴力団で行われている盃事は、跡目相続、親子盃、兄弟盃、手打ち盃などがあります。一方、的屋系の暴力団の盃事には、神農盃、親子盃、義兄弟盃、親族盃、仲直り盃などと呼ばれている盃事があります。これら盃事のひとつひとつについての説明は長くなりますので、ここでは盃事の代表例として、親子盃のやり方についての概略を説明してみたいと思います。その他主な盃事についての説明は、別項で行う予定です。

●「親子盃」
親子盃は、親分子分の血縁関係を特定するための儀式です。

先ず、吉日を選び日取りが決定されると、清められた式場の床の間に祭壇を設け、博徒系の場合は、右側から「八幡大菩薩」「天照皇大神」「春日大明神」の三軸が掛けられます。このような誓盃(せいばい)儀礼の場にこうした掛軸を掲げるのは、暴力団の社会は、強者信仰が強く、強者であるはずの親分の上に、なお民族神と二武神を置いて、その力を借りようとする意味合いがあるようです。

これに対し、的屋系の場合は、「今上天皇」「天照皇大神」「神農皇帝」の3軸が掲げられます。この神農皇帝というのは、的屋の守護神とされ、中国古代の伝説上の帝王で、造化の神の一人といわれています。民に農業や養蚕を教えたり、様々な草を試食して医学を教えたほか、五絃の琴を発明し、また市場を設けて商業を教えたとされているところから的屋の守護神とされたものと思われます。

祭壇には12本の百目ローソクを灯します。これは当日の客人衆の祝意を表すものといわれていますが、客人には必ず干支があるところから、12本で十二支となり、客人衆全員を意味してもいるわけです。

その他祭壇には奉書付神酒、献納物が飾られ、三宝に乗せた徳利一対、盃1個、盛り塩3山、生魚一対(向鯛)が用意されます。このうち、生魚一対として鯛が用意されるのは、新子分にとっては親子盃は出生盃とみなされているところからであって、2匹の鯛が背中合わせに置かれるのが作法とされ、一方の鯛は一方の鯛より低く置き並べられます。つまり、低く並べられるのが新子分のもので、親分と肩や頭を並べることは絶対に許されないことを意味しています。

盃は、神前用に一個、取持人が一個、親分は新子分の数だけ所持します。また、祭壇の左右には、各親分衆の名前を掲出します。

この盃事における出席者は、直接の当事者である親分と新子分、取持人(仲介役)、媒酌人、介添人2人、口上人(司会者)、世話人(進行係)、見届人、立会人と客人衆などですが、時によっては身内の幹部クラスの出席だけで済ますなど、盃事そのものも簡略化する場合も多くなっているようです。

儀式は、口上人の司会ではじまり、取持人の執行で親子盃が交され、親分から下げられた盃を新子分が飲み干し、その盃を懐紙で包み懐中に収め、次いで祭壇の神酒を2個の盃に注ぎ、左右の列座へと廻し、2個の盃を下座で交錯させて再び上座に廻し、上座で結合したところでこれを重ね、箸その他を乗せたところへ神酒を注ぎ、一同で手締めを行って終わります。

この親子盃の交盃の際、立会人から子分としての心得を諭します。こうした交盃によって一家名乗りが許されて、名刺にも○○組等という組織の看板が使えるようになります。同時に、親分が「黒だと言ったら白い物でも黒だと言う」絶対服従の関係ができあがり、かってに組織から離脱もできない、まさしく苦難の道が始まることになります。

この儀式は古式に則っとるため、出席者は羽織、袴に威儀を正し、腕時計、指輪も付けてはならないのが決まりとなっています。


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