13) 破門、絶縁、除名、除籍先に説明した私刑(リンチ)が、暴力団の組織統制のための肉体的苦痛を与える私的制裁であるのに対し、暴力団社会には、その社会の中でいわば制度的に認められた制裁方法として、「破門」、「絶縁」、「除名」という制裁があります。
これらの制裁は、私刑(リンチ)と同様、組織の「掟」に背いた行為がその対象となりますが、一般的には、私刑(リンチ)の場合に比べより重い「掟」背叛と認められるときにこれらの制裁が加えられていると言えると思います。ただし、その判断基準は、はっきりとしていません。結局は、親分の気持ち次第ということになります。
なお、こうした制度的制裁の範ちゅうには入りませんが、「除籍」という暴力団社会で制度的に認められた処置もありますので、本項で合わせて説明します。○破門
破門は文字どおり、その組織から追放処分とする制裁ですが、親分の顔に泥を塗り、親分や組織への造反、抵抗と判断されるような行為があった場合に行われます。
破門には、その宣告方法からみて、「口頭破門」と「破門回状」の二つがあり、内容的には、「所払い」などと言われる地域を限定した追放処分もあります。
「口頭破門」というのは、期限を切って破門を宣告するものですが、最近では口頭破門という言葉を使うことは少なく、むしろ「謹慎」という形をとることが多いようです。
「破門回状」というのは、「破門状」という回状を作って各組織に広く通知するわけです。往時、破門状は、高級和紙に印刷されていましたが、現在では、ハガキ印刷の場合が多いようです。
また、破門状は、文字が赤字で印刷されている場合と黒字の場合がありますが、それは、組織に対する迷惑の度合いによって決まり、赤字の方が重いとされています。
この破門状を受け取った組織では、破門をされた者を客分としたり、結縁したり、商談、交際など一切のことについて相手としてはならない決まりです。
つまり、「破門回状」という制裁は、その組織からの追放と、全暴力団社会からの除外という二重性をもった制度的に確立されている制裁であるわけです。
従って、破門されますと、その本人は暴力団社会では生活できなくなるため、彼らにとっては、大変重い制裁といえます。
しかし、破門は、相当の期間が経過し、本人に悔悟の気持が認められ、かつ、相当な者の取り持ちがあれば、破門が許され元の組織に復帰できる場合があるという点では、絶対に組織に復帰できない、後で述べる「絶縁」や「除名」といった処分とは異なります。復縁した場合は、「復縁状」を各組織に送ります。
なお、最近の暴力団では、以上のような「掟」背叛に対する破門のほかに、組織防衛のため、捜査機関から目を付けられた者をわざと破門処分として、組織と関係のない体を装い、ほとぼりがさめてから復縁をさせるなど、組織防衛に利用する「偽装破門」を行う場合も見受けられます。○絶縁、除名
絶縁も除名も破門と同様に、暴力団の「掟」に背いたことを理由に組織から追放する制裁処分ですが、破門の場合は、復縁の余地があるのに対し、絶縁、除名の場合は、その余地がないのが決まりとされています。
ただ、どのような場合に絶縁とし除名処分とするのか、その使い分けが曖昧ですが、この二つとも復縁が絶対に認められない処分であるところからみて、破門より絶縁、除名の方がより重大な「掟」背叛があった場合の制裁処分といえます。
絶縁や除名の場合も、「破門回状」と同じように、「絶縁状」や「除名通知」の回状を各組織に送ります。その回状を受け取った各組織では、当人と一切の関係を断つことになります。
従って、絶縁や除名処分を受けた者は暴力団社会では生きて行けなくなるところから、暴力団社会から足を洗う以外に道はないわけです。その上、処分の理由となった「掟」背叛の内容次第によっては、絶縁や除名された上に報復を覚悟しなければならず、一般社会への復帰といっても容易ではなく、結局路頭に迷う場合が少なくないようです。○除籍
除籍は、「掟」背叛を前提とせず、本人からの申し出によって、組織から脱退することを承認し、「除籍通知」を広く暴力団各組織に送り発表するものです。従って、制裁処分である破門、絶縁、除名とは異なります。
除籍の理由としては、老令による引退、堅気転向、資金窮迫等による組織離脱などがありますが、何れも親分の承認が必要であることはいうまでもありません。
こうした場合に、先に説明しましたように、除籍される本人が断指し、その指を親分に差し出すこともあります。
すなわち、時によっては除籍の代償として断指を求め、組織脱退が相次ぐようなことのないようにするわけです。