17) フロント企業最近、暴力団の「フロント企業」という言葉を聞いたり目にしたりする機会が多くなりました。
それでは、この「フロント企業」とはいったい何か。簡単に言えば、「暴力団を背景とした企業活動を行い、その利益を暴力団に提供している企業またはその経営者」のことを指しています。こうした「フロント企業」には、大まかに分けて2つの態様があります。
その1つが、もともと暴力団が設立し、その経営に関与している企業です。その2つは、暴力団の準構成員など暴力団と親交のある者が経営する企業で、暴力団に資金提供を行うなど暴力団組織の維持運営に積極的に協力している企業です。
昭和61年末頃から始まったいわゆるバブル経済を通じて、それまで裏の経済社会で活動していた暴力団が、表向きは暴力団とは無関係を装い、実体は彼らの息のかかった企業の企業活動によって、次第に表の経済社会に進出する傾向を強めてきました。
そうした、暴力団が表の経済社会に進出する「先兵」役となった企業及びその経営者を総称して、暴力団の「フロント(先兵)企業」と呼ぶようになり、その呼称が定着しました。
それまでにも、暴力団を背景としながら、表経済社会で活動し暴力団の資金獲得活動に携わっている者が居たのですが、それらについては、「企業舎第」と呼んでいました。ですから、今では、「フロント企業」も「企業舎第」も同義語として使われています。ところで、平成4年3月に成立した「暴力団員による不当行為の防止等に関する法律」(略称、暴対法・暴力団対策法)によって、同法に基づき指定暴力団と認定された暴力団の組員が、いわゆる「暴力的要求行為」を行えば、「中止命令」という公安委員会の行政命令によって、その暴力的要求行為を止めさせることができるようになりました。また、「中止命令」に違反すれば、罰則が課せられることとなったため、指定暴力団は、こうした暴対法の適用を免れるために、「フロント企業」を設立し、形式的に組を脱退した組員を送り込む傾向を一層強めるようになりました。
これまでのところ、「フロント企業」が進出している業界は、金融業、土木・建設業、不動産業、風俗営業・飲食業などが多く、最近では、人材派遣業、産業廃棄物処理業などの分野にも進出してきています。
こうした「フロント企業」は、やはり一般の企業倫理や取引常識とはかけ離れた営業活動を行い、一担トラブルが発生すると、背後の暴力団の威嚇力を利用するなど、一般企業にとっては極めて危険な存在となっています。
今では、いわゆる民事介入暴力事件のほとんどは、こうした合法行為を装った「フロント企業」によって行われ、そうした事案そのものも増えてきていると言われています。このような情勢の中で、特に問題として指摘されているのが、「フロント企業」を利用し、結果的に彼らの営業活動を支え、暴力団の資金獲得活動に協力している一般企業が広く存在していることです。「フロント企業」が表面上は暴力団でないことをよいことにして、こうした取引を行う企業は社会的にも強く指弾されなければなりません。
また、「フロント企業」と取引を継続しておれば、いつかは、結局その餌食になってしまう恐れが多分にあることを認識すべきものと考えます。