44) MDMA・MDA等錠剤型合成麻薬当講座30)「覚せい剤」、41)「大麻」でも指摘したように、今、我が国では各種の薬物が広く乱用されており、その撲滅が社会の重要な課題となっています。しかし、残念なことに、薬物乱用は依然としてその沈静化の兆が窺われないどころか、ますます拡大する傾向にさえあるのが現状です。
そうした中、昨今、MDMAやMDA等の錠剤型の合成麻薬事犯が、主として20歳代を中心とした若年層で急激に増加しており、下表の通り、平成16年からMDMAやMDA等錠剤型麻薬事犯の検挙人員、押収量がともに高水準で推移しているなど、乱用の拡大が顕著となっていますが、中でもその主な乱用薬物がMDMAやMDAとなっています。
●MDMA等錠剤型合成麻薬事犯の検挙、押収状況の推移
年別(平成)
区分12年 13年 14年 15年 16年 17年 18年 19年 20年 21年 検挙件数 152 252 291 508 833 881 816 608 628 268 検挙人員 69 102 117 256 418 403 370 296 281 103 うち暴力団構成員等 8 22 26 53 138 148 113 102 84 28 同上比率(%) 11.6 21.6 22.2 20.7 33.0 36.7 30.5 34.5 29.9 27.2 押収量(錠) 77,076 112,358 174,259 393,088 469,124 571,522 186,231 1,233,883 217,172 61,280 うちMDMA − − − − 414,768 510,179 185,777 1,187,434 202,886 36,466
●MDMA等錠剤型合成麻薬事犯の年齢別検挙状況(平成21年)
年齢別 20歳未満 20〜29歳 30〜39歳 40〜49歳 50歳以上 人数 8 48 32 14 1 構成比(%) 7.8 46.6 31.1 13.6 1.0 MDMAとは、その化学名をメチレンジオキシメタンフェタミン(Methylenedioxymethamphetamine)と言いMDMAはその略名です。一方、MDAは、メチレジオキシアンフェタミン(Methylenedioxyamphetamine)の略名ですが、何れもアンフェタミン類として分類される薬物です。
このMDMA、MDAは覚せい剤と似た科学構造を有する薬物ですが、けしやコカ等の植物からではなく、化学薬品から合成された麻薬の一種で「麻薬及び向精神薬取締法」の規則の対象となっています。
これが乱用者の間では、MDMAを「エクスタシー」「バツ」「タマ」、MDAを「ラブドラッグ」等と薬物とは関係ないような隠語で呼んでいますが、薬物であることには変わりはありません。
MDMA、MDAともに本来は白色粉末ですが、その多くは赤、青、ピンクと様々な着色がなされ、文字や絵柄が入った錠剤やカプセルの形で密売されており、他の薬物のように注射したり、火であぶったりする手間が要らず、容易に口から摂取することができること、薬物とは関係ないような呼名が使われていること、街頭等での無差別販売や携帯電話、インターネットによる販売等入手が極めて容易になっていること等から抵抗感や罪悪感が希薄化してきおり、そのことが乱用拡大につながっていいると思われます。
また、現在国内で密売されているMDMAやMDA等錠剤型合成麻薬は、そのほとんどが密輸入されたものです。その仕出地を見てみますと、オランダ、カナダ、フランス、ドイツ、スペイン等欧州及び北米からの空路による密輸入が主となっていますが、平成16年に入って、その仕出地として中国、ロシア等も把握されており、また、海路による密輸入も数例検挙されるなど、密輸入ルートの多様化と密輸入手口の巧妙化が顕著となっています。
更に、ご他聞に漏れず、これら錠剤型合成麻薬の密輸入、密売にも暴力団が深く関り、その資金源となっていることも、検挙状況表を見れば歴然としています。
ところで、MDMAやMDA等アンフェタミン類の薬害はどのようなものでしょうか。
アンフェタミン類には覚せい作用があって、これを摂取すると、一時的に集中力を高め、疲労感を軽減させ、或いは幸福感、陶酔感を誘発する一方では、理性による抑制が失われ、常軌を逸した行動に出てしまうことにもなります。
こうしたアンフェタミン類は、幻覚発現薬、精神異常発現薬とも呼ばれていますが、アンフェタミン類を常用すると、依存性の一部として急速に耐性が生じ、使用量が増加し、その結果、高度の不安、妄想、現実感の歪みを引き起こし、精神病的な反応として幻覚や幻聴が現われるようになり、その行き着く先は、脳障害、精神錯乱によって、身心が破壊されてしまうという恐ろしさがあります。
なお、MDMAなどは、換気の悪い暖かい室内や激しい運動をしているとき(例えばテンポの速いダンス等)、汗を多量にかき水分補給が十分でないとき等の条件下で服用すると、血圧を極端に上昇させ、心臓発作、脳卒中等の合併症が生じ易くなるとも言われています。